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「プレイヤー」1983年9月号(プレイヤー・コーポレーション)

これまでの集大成的な色合いを持つ新作『薔薇色の明日』を作り上げた高橋幸宏に、今後のソロ活動/YMOについて聞いてみた。

インタビュー:小貫信昭

 高橋辛宏に約1年ぶりのインタビューを試みた。お話の中心は、8月24日に発売されるニュー・アルバム『薔薇色の明日』の事。そして、この本が出る頃にはスタートしている高橋事宏バンドのツアーの事だ。

 ところで、例の「君に、胸キュン。」でYMOがベスト・テン番組に出演した際、幸宏がギターを抱えていたのを御記憶だろうか。
実は、あれは単なる演出ではなく、彼の今後の活動方針を占う意味で、とても意味あるものだったのだ。まあ、そんな事はともかく、ニック・ヘイワードに憧れてオールド・ギターを白く塗り変えたという幸宏氏、今日も元気に音楽です。


“ベスト・オプ・ユキヒロ”的な新作


−−1年2か月ぶりにソロ・アルバム『薔薇色の明日』がリリースされるわけですが、今度のアルバムはどんなアルバムですか。
「新しい、アルバムです(笑)。」

−−うっく・・・。多くの外人が参加していますが、これらの参加外人について教えて下さい。まずA面1曲目の“RIPPLE”にはピエール・バルーが入ってますね。
「ピエール・パルーは、この曲を作った時から、彼が歌ったら合いそうだっていうのがあったんです。それで、彼が自分のアルバムの打合わせで来日した時、サラヴァ・ジャボン取締役の権限で参加してくれるよう頼みました。」

−−ビル・ネルソンはどうですか。
「ピルはもう、やったりやられたりの関係です。ごくごくスンナリと進みました。ちょうどYMOで『浮気なほくら』を作ってた時の一環だったんです。でも今回、彼と一緒に歌ってみたらね、割とハモが合うんで、いよいよ今度、デュオのシングルを作ろうと思うんですよ。」

−−今回のアルバムは他人の曲も解り上げていますが、B面2曲目がプライアン・フェリーの“THISISLAND EARTH”でぐB面最後が何とパート・バカラックの“THE APRIL FOOLS”ですね。この辺の選曲についても一言お願いします。
「まずブライアンの曲ですけど、あれはね、他のコンセプトが今回のアルバムに合ってたんです。あの位置(B面2曲目)に持ってくると良さそうだと…。歌詞が変わってるし・・・。
前からブライアンの曲はやりたいと思ってたんですけどね。バカラックの“THE APRIL FOOLS”は高校年の頃から歌いたかった曲です。」

−−でも今度のアルバムって、幸宏さんのいろいろな面が全部バランス良く収められている気がしたんですけど。“ベスト・オブ・ユキヒロ・タカハシ”って言うか・・・。
「うん。そうですね。傾が今までやって来た色々なタイプが全部入ってますもんね。例えばピエールとやったのは、その一連の流れの感じの曲ですし、A−2の“MY BRIGHT TOMORROW”というのは、僕がやってきた英語のヴォーカルの曲の典型的なものてすし、次の“蜻蛉”とか“6日の天使”は日本語版の典型ですしね(笑)。“COINCIDENCEはヒートルズ・フリークの中の一瑞が露骨に出てますし(笑)。」

−−B面4曲日の“GOOD TIME”はピックリ・ハウスのカセットに入っていた作品を作り変えたものですよね。
「そうです。バックの音はそれほど変ってません。もちろん、ミックスはやり直してますけどね。あの曲は最初から歌を入れようと思ってたんですよ。このままではもったいない、とね。」
(注:この曲のピックリ・ハウス版ヴァ−ジョンは、パーティ会場でうまくナンバできない内気な繋の人をテーマにした“スネークマン”仕立てだったワケだ)

−−収められた10曲以外にも作品はあったんじやないですか。
「ええ。作品は他にも色々とあったんですけどね。例えば次のニッカのCM曲に予定している「蜻蛉」のB面用として作った曲とか、6月にシングル・カットした「前兆」のB面の“アナサー・ドア”とかね。いちおう、シングルのB面の曲は全部入れないようにしたんです。あと、昨年の幸宏バンドでマー坊(土屋昌巳)たちと録った曲とかね。その辺は全部やめました。」

−−今回のレコーディングは、ヴォーカル録りに“河口潮スタジオ”という所を使ったそうですが、特に何かあったんですか。
「あのスタジオは新しく出来たスタジオなんです。初めて使ってふたんですけど、すこく気に人っちゃって・・・。すごくライブな音でね。でも、何がいいって、やっぱり好きな時に好きなだけスタジオを使える事ですね。今回は詞が最後まで出来てなかったって事もあって(笑)、とても助かりました。」

−−レコーディング中に釣りをやったりなんかして。
「釣りは1回だけやりました。ちょうど取材に来ていた編集者の人が凄く釣りが好きでね。それではって事で、朝早く起きてやりました。」


“セッション”という言葉が本来の輝きを取り戻す・・・高橋幸宏バンド


−−この辺で今年の高橋幸宏バンドの話をうかがいたいと思います。今年のメンバーは元ABCのドラマー、デヴイツド・パーマーや、立花ハジメ、ビル・ネルソン、鈴木慶一、などなど、昨年と同様に多彩な面々ですね。何か昨年との決定的な違いとかってあるんですか。

「あんまりないです。根本的には、ああいう風にカッコつけて楽しめればいいという感じですね(笑)。1曲目から踊れてね。見てる方もやる方も楽しめるのがいいですね。」

−−鈴木慶一さんが参加してますがビートニクス関係の曲もやるんですか。
「そうです。2曲ほどビートニクスの曲をやろうかなって思っているんですけどね。」

−−珍しく野外のステージが多いですよね。特別に特に意識するってのはないです。野外だから、やはりやりにくいでしょうね。全部見せちゃうワケだから、トータルなコンセプトのステージっていうのは難しい・・・。外で並んでいるお客さんにリハーサルの音も全て聞こえてしまう世界ですからね(笑)。それとね、もっと困る事があって、昨年ほどではないにしろ、今年もステージでテープを使うんですよ。テープって、野外だと伸びるんですよね。今回も普通のオープンを使うつもりだから。その辺がちょっとね。」

−−やってる側の開放感とかは、あまり音楽に関係して来ないんですか。
「そういうのは70年代で終ったんじゃないですか(笑)。でも、僕みたいな音楽を野外で聞くっていうのも、きっといいですよ。滅多にある事じゃないと思いますし(笑)。」

−−演奏する曲はニュー・アルバム中心ですか。
「えーと、もちろん今度のアルバムと、前の『What Me Worry?』からはほとんと全部やります。それにビ−トニクスから2曲、YMOから1曲やります。YMOのツアーだと、さあ、どうしよう、というのがあって大変なんですけど、ソロはね、もう気楽にやってますね。」

−−元ABCのドラマー、デヴイツド・パーマーがツアーに参加しますが、これはどういうキッカケだったんですか。
「これはね、スティーヴ・ジャンセンが一風堂をやるんで、同じ人ではない方がいいって話してたのが最初なんです。ちょうどその時、ABCが日本に来てて、ウチに電話が掛かってきたんですよ、デヴィッドから。それで向こうが“ちょっと会いたいんだ”という感じだったんで、彼が帰る少し前に時間を作って会って色々と話してね。その時、デヴィッドに「8月とか11月とか何やってる?」って聞いたら「いや、別に何もない」つて事だったから、「僕のバンドでツアーをやらないか」って言ったら、もう目の中とか鼻の中とかピクピクッてなってね、「絶対にやるから!!」みたいなね。それでしばらくしたら、彼はABCをやめちゃって、今は凄い今回のツアーにやる気満々みたいだけど。」

−−本格的な音合わせはこれからですか。
「そうです。今度のツアーのリハーサルでまとめ上げるだけです。」


 ミュージシヤンの横の関係がとてもスムーズで、“セッション”という言葉が本来の輝きを取り戻すのか高橋幸宏”バンド。昨年の成功は、そんなこんなで当然の事だったのかもしれない。今年はニュー・アルバム『薔薇色の明日』の多彩な仕上りを受けて、昨年以上にカラフルなステージが予想される。さて、ニュー・アルバムが今までの彼の集大成的な色合いを持っていた事を考えれば、この辺で幸宏サウンドが一つの転機を迎える可能性もある。


日本唯一の生き残りテクノ・バント・・・YMOは「過激なハード・テクノをやります!」


−−ソロ・ツアーが終ると、今度はYMOとしてのツアーが待ち受けていますけど、何か考えがあるんですか。
「えーと、主に音の方のコンセプトなんですけども、めっちゃくちゃ過激なハード・テクノをやろうかと思っているんです。もう全部の曲をアレンジし直して、全部テンポを早くしてね。まったくのエイト・ビート(笑)。それで、演奏をほとんどナマにして、自動演奏はコンピューターのベースぐらいにしてね。
ハード・テクノのベースで、ずっと“ダッダッタッ・・・”ていうのがあるでしょ。あの感じ。日本唯一の生き残りテクノ・バンドてすよ(笑)。」

−−今後ソロとしてはどういう活動をして行くんですか。『薔薇色の明日』は、今までのソロ活動を清算するような内容にも受け解れますよね。
「うん。そういうツモリはあります。ハッキリ言いますと。ホントに、次はね。よくアコースティックなものをやりたい、とかって言一うと誤解されるんでね、言い方を変えようと思っているんですけど・・・。サイモンとガーファンクルみたいなのをやりたいんですよ。だから、もっと生真面目になるよ、きっと(笑)。
ホラ、今、流れるようなファッションさっていうのはね、自分の中で必要としなくなったんだよね。」

−−デュオ・グループでやっちゃうんですか。
「いや、ソロでやるのはソロでいいんです。デュオっていうのは、前に冗談でよく細野さんと話してたんですけど(笑)。」

−−身軽に音楽をやりたいって事ですか。
「いや、切実にやりたいんです、ますます(笑)。
今ってプロテスト・ソングを必要としないでしょ。例えは70年代みたいなプロテスト・ソングを歌うと、皆んなが拒否反応を起こすみたいなね。でも、新しい時代のアグレッシヴさがね、精神の中に有ればいいなって思うんですよ。それは、もの凄いハード・ロックをやる事でもなけりゃ、前衛やる事でもないような気がして・・・。」

−−はい。
「だからギリギリのとこへ行くと松山千春さんとかですね、あの辺と紙一重のとこへ行く事になるんでね。根本の精神はまったく逆なんだと思うけど。サウンド的にはね、日本語でそういう音楽をやると、とても誤解されやすいし、いくら“本音で歌ってる”って言っても、ケツの穴がカユくなるような歌詞になる可能性も強いし。フォークのような人達みたいに。でも、くれぐれも言っておきたいのは、パターンとして、カタログみたいにそういう事を歌う気はまったく無いって事ですね。」

−−そうなると、詞の方が先に出来るかも知れませんね。
「ホントはそうしたいけど、なかなか難しいです。詞が先になると、かなり音楽が制約されますしね。それが解決できれば、それでもいいし、別にこだわってないですね。」

−−ニツカのCMは今年1年間ですか。
「そうです。あれは歌詞が難しいんですよね。
 具体的な言葉が使いにくいんですよ。英語の歌詞は問題ないんですけどね。だから、「前兆」も、最初はもっと具体的なラブ・ソングだったのを手直しして‥・。大変なのは、それらの色々な要素を満たしつつ、日本の歌謡界でヒット曲として受け入れられる事なんてす(笑)。」



 話か一段落すると、彼は事務所の押し入れからギター・ケースを取り出した。そして、嬉しそうに最近手に入れたギターを見せてくれる。高橋幸宏は、もちろんプロのギタリストではない。彼は高校生が弾くように、コードを押えてポロンとやる。何かワクワクするのだ。1人のミュージシャンが、見事に音楽をたぐり寄せたような感じ。 こういうのって、いいんだよねー。